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東京高等裁判所 平成9年(行ケ)25号 判決

三重県四日市市中部14-14-204

原告

小林寛明

訴訟代理人弁理士

萩原誠

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 伊佐山建志

指定代理人

谷川洋

田辺寿二

吉村宅衛

小池隆

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

「特許庁が平成7年審判第6898号事件について平成8年12月20日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

2  被告

主文と同旨の判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和61年8月25日、名称を「情報検索装置」とする発明(以下「本願発明」という。)について特許出願(昭和61年特許願第198772号)したが、平成7年3月14日拒絶査定を受けたので、同年4月10日拒絶査定不服の審判を請求し、平成7年審判第6898号事件として審理された結果、平成8年12月20日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は平成9年1月21日原告に送達された。

2  本願発明の要旨

検索条件を設定するための検索条件設定手段と、該検索条件設定手段によって設定された検索条件を多量の情報が蓄積されしかも複数の情報検索装置によって共用されるデータベースに対して通信回線を介してのアクセスに適した信号に変換し送信するためのデータ送信手段と、上記検索条件に基いて上記データベースから抽出された検索結果を通信回線を介して受信するためのデータ受信手段と、該データ受信手段によって受信された検索結果を記憶するための検索結果記憶手段と、該検索結果記憶手段に記憶された上記検索条件に基いて上記データベースから抽出された検索結果に対応してディスク状記録媒体に記録された情報を選択的に読み出すための情報読み出し手段を備えることにより検索条件が通信回線を介してデータベースに供給されて抽出された上記検索条件に基く検索結果を通信回線を介して受信し該受信した検索結果に対応してディスク状記録媒体に記録された情報を選択的に読み出すようにしたことを特徴とする情報検索装置。(別紙図面1参照)

3  審決の理由の要点

(1)  本願発明の要旨は前項記載のとおりである。

(2)  これに対して、本願の出願の日前の昭和60年6月17日に頒布された日経マグロウヒル社発行「日経アーキテクチュア 1985年6月17日号(第241号)」の58頁ないし63頁(本訴甲第2号証。以下「引用例」という。)には、

〈1〉 「ユーザーとしては、自分の事務所内に、パソコンとビデオディスクを設置しておく必要がある。やがて、Hic(注 住宅産業研修財団のHousing information centerの略称)からレーザーディスクが宅送便で配達されてくるので、それをビデオディスクにセット。これで準備完了である。あとは、機器のスイッチを入れるだけ。すると、パソコンの画面に、ホストコンピュータから電話回線で送られた文字情報と、レーザーディスクからの画像情報が、それぞれ写し出されるという仕組みだ。必要な場合には、文字情報、画像情報ともプリントアウトできる。」(58頁右欄5行ないし18行、及び、図1、図2(注 別紙図面2の図1、図2)を参照)

「そのためユーザーは、あたかもメーカーのカタログ集をパラパラめくっているかのように、商品を目で見て判断することができる。」(58頁右欄21行ないし24行、及び、図1、図2を参照)

「レーザーディスクの画像を、仮に1画像につき1秒ずつの割合で順番に眺めていったとしよう。すると、10万点の画像を見終わるまでに、28時間近くもかかってしまう。これでは時間の無駄使い。自分が探したいと思う商品に、素早く近付けるデータベースでないと、実用的とはいえない。この点に関し、Hicは3種類の検索方法を用意している。すなわち、A;用途分類表を使う方法、B;アイウエオ順商品名簿を使う方法、C;メーカー名簿を使う方法、である。個々に説明していこう(詳しくは図3(注 別紙図面2の図3)参照)」(58頁右欄34行ないし59頁左欄6行)

そして、A;用途分類表を使う方法において、

「今、この用途分類表を使って、シャンデリアを探すとしよう(注:シャンデリアを探すなら、本来はB;のアイウエオ順商品名簿を使うのが早道。ここは仮定の話である)。すると、電気関係→照明→室内照明器具という順で、小区分にたどりつくはずである。この時点で、画面には、「室内照明器具には、32社、1200商品があり、価格は3000円から35万円まであります」と表示される。続いて、「〈1〉全商品の画像を見る。〈2〉希望のメーカーの商品を見る。〈3〉希望の価格の商品を見る。どれかを選んで下さい」と、ユーザーの希望を尋ねてくる。〈2〉を選ぶと、画面にはメーカー名と商品数がズラズラッと表示されるので、あとは自分の好きなメーカーを指定すればよい。この場合、さらに希望する価格帯の商品だけに絞り込むこともできる。シャンデリアは普通は高額商品である。したがって、メーカーとしてM電工を選び、希望価格帯として30万円以上を指定してみる。すると、画面は「M電工の30万円以上の照明器具は15商品あります」と回答してくる。15商品ぐらいなら時間も余りかからないから全部見ることにして、キーボードのキーを押すと、画面には画像が次々に現れてくる。」(59頁左欄20行ないし60頁左欄9行)と記載されている。

また、「B;アイウエオ順商品名簿を使う方法一。名簿には1万点の商品名が記入されている。この名簿を使って、再びシャンデリアを探してみよう。名簿によると、シャンデリアの商品番号は16510(室内照明器具の小区分番号と同じ)。この番号をタイプすると、「室内照明器具には、32社、1200商品があり、・・・・・・」という、A;の方法で見た画面が表示される。したがって、ここから後は、A;と全く同じ手順で進めればよい。なお、名簿を使わなくても、シャンデリアと直接タイプすれば、画面に商品番号が表示される。」(60頁左欄14行ないし28行)と記載されている。

〈2〉 さらに、電話回線を介して送受信される文字情報として、カーペットの文字情報の一例が62頁左欄上段に記載され、ここには、商品名称やその品番などが記載されている。

(3)  そこで、本願発明と引用例に記載された発明とを対比する。

〈1〉 引用例に記載された発明において、シャンデリアを探すとは、ユーザーが端末機器を用いて、検索条件であるシャンデリアを用途分類表又は商品番号を使って、検索することであるから、「ユーザーの端末機器」には、本願発明における「検索条件を設定するための検索条件設定手段」が備えられているといえる。

(なお、本願発明における「検索条件」は、例えば、『変調』であるが、この『変調』は「検索条件」であるから、引用例に記載の『シャンデリア』に相当する。)

〈2〉 また、(a)引用例に記載された発明においては、「ユーザーの端末機器」と「多量の情報が蓄積されたデータベースを備えたホストコンピュータ」とは電話回線を介して、「ユーザーの端末機器」からは「検索条件シャンデリアを用途分類表(又は、シャンデリアの商品番号)を使って、電気関係→照明→室内照明器具という順で、小区分にたどりつくキーボードからの操作情報(この情報は、最終的にはシャンデリアの商品番号と同じ16510)」を文字情報(本願発明の「アクセスに適した信号」に相当する。)として送り、この文字情報を受けた「多量の情報が蓄積されたデータベースを備えたホストコンピュータ」からは検索条件に基づいて抽出した検索結果(シャンデリアの1200商品又は希望するシャンデリアの15商品)を文字情報として送るから、(b)「ユーザーの端末機器」には、本願発明における「データ送信手段」と「データ受信手段」とが備えられているといえる。

(なお、本願発明における「検索結果」は、例えば、『特許番号』であるが、この『特許番号』は「検索結果」であるから、引用例に記載の『1200商品又は15商品』に相当する。)

〈3〉 さらに、引用例に記載された発明において、「ユーザーの端未機器」には、抽出された検索結果(シャンデリアの1200商品又は希望するシャンデリアの15商品)に対応して、その商品を目で見て判断するための画像情報(カタログ)が記憶された「レーザーディスク」を駆動するビデオディスクが備えられているから、この「レーザーディスク」は、本願発明の「ディスク状記録媒体」に相当し、また、抽出された検索結果である1200商品又は15商品に対応して、その1200商品又は15商品の画像情報が目で見られるから、「ユーザーの端末機器」には、本願発明の「情報み出し手段」が備えられているといえる。

〈4〉 そして、(a)引用例に記載された発明において、ホストコンピュータにおいて、多量の情報が蓄積されたデータベースは、複数の「ユーザーの端末機器」に共用され、アクセスされるから、(b)この「ユーザーの端末機器」は、本願発明の「情報検索装置」に相当する。

(4)  したがって、本願発明と引用例に記載された発明とは、「検索条件を設定するための検索条件設定手段と、該検索条件設定手段によって設定された検索条件を多量の情報が蓄積されしかも複数の情報検索装置によって共用されるデータベースに対して通信回線を介してのアクセスに適した信号に変換し送信するためのデータ送信手段と、上記検索条件に基いて上記データベースから抽出された検索結果を通信回線を介して受信するためのデータ受信手段と、上記検索条件に基いて上記データベースから抽出された検索結果に対応してディスク状記録媒体に記録された情報を選択的に読み出すための情報読み出し手段を備えることにより検索条件が通信回線を介してデータベースに供給されて抽出された上記検索条件に基く検索結果を通信回線を介して受信し該受信した検索結果に対応してディスク状記録媒体に記録された情報を選択的に読み出すようにしたことを特徴とする情報検索装置。」である点で一致じ、上記「情報検索装置」が、本願発明においては、「データ受信手段によって受信された検索結果を記憶するための検索結果記憶手段」を備えているのに対して、引用例に記載された発明においては、このような記憶手段が明記されていない点で相違する。

(5)  上記相違点について検討する。

〈1〉 (a)引用例に記載された発明においては、ユーザーは情報検索装置を用いて、シャンデリアの商品番号を通信回線を介して、検索することによって、自分(ユーザー)が探したいと思う商品又は希望する商品が、データベースから通信回線を介して、1200商品又は15商品であると回答され、(b)この1200商品又は15商品の画像をディスク状記録媒体から次々に見るものである。

〈2〉 そして、商品の文字情報としては、商品名称や品番などが引用例に記載されているから、この商品名称や品番などに対応するものが、ディスク状記録媒体に記憶されており、この商品名称や品番などを基にして、1200商品又は15商品の画像情報が得られ、次々に見られるといえる。

また、1200商品又は15商品の商品名称や品番は、ユーザーが情報検索装置を用いて、プリントアウトできるので、ユーザーの情報検索装置に少なくとも一時的に保持ないしは記憶されるといえる。

〈3〉 したがって、引用例に記載の「情報検索装置」は、「データ受信手段によって受信された検索結果を記憶するための検索結果記憶手段」を備えているといえるので、この記憶手段を、一時的な保持手段ないしは永久的な記憶手段とすることは、当業者であれば、必要に応じて適宜なし得ることである。

〈4〉 なお、請求人(原告)は、引用例に記載の発明の目的、構成効果は、本願発明のそれらと異なる旨主張しているが、この主張は、本願特許請求の範囲の記載に基づくものではなく、本願発明の一実施例である特許情報の検索システムを意識しての主張であって、採用できない。

〈5〉 仮に、本願発明が、特許情報の検索システムに係るものとしても、特許情報の検索システムにおいて、情報検索装置にディスク状記憶媒体を設けることは、本願の出願の日前の昭和60年10月に頒布された「とっきょ 60年10月号(No.158)」(甲第3号証)に記載されているから、引用例に記載されたものを特許情報の検索システムに適用とすることは、当業者であれば、容易になし得ることである。

(6)  以上のとおりであるから、本願発明は、引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるので、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

4  審決の理由の要点に対する認否

審決の理由の要点(1)は認める。同(2)のうち、〈1〉は認め、〈2〉は争う。同(3)のうち、〈1〉、〈2〉(b)、〈3〉〈4〉(b)は認め、〈2〉(a)、〈4〉(a)は争う。同(4)のうち、本願発明と引用例に記載された発明とが、「検索条件を設定するための検索条件設定手段」を備え、「該受信した検索結果に対応してディスク状記録媒体に記録された情報を選択的に読み出すようにしたことを特徴とする情報検索装置」である点で一致すること、及び審決認定の相違点があることは認め、その余は争う。同(5)のうち、〈1〉(a)、〈5〉は争い、〈1〉(b)、〈2〉ないし〈4〉は認める。同(6)は争う。

5  審決を取り消すべき事由

審決は、引用例に記載された発明の技術内容を誤認して、本願発明との一致点の認定を誤り、相違点を看過した結果、本願発明の進歩性についての判断を誤ったものであるから、違法として取り消されるべきである。

審決は、引用例記載の発明は、Hic内のホストコンピュータとユーザーのパソコン(端末機器)とが電話回線を介して対話形検索を行うものであると認定しているが、誤りである。

(1)  対話形検索方法について

引用例(甲第2号証)には、Hic内に文字情報を収録したホストコンピュータを備え、一方、ユーザーの事務所内にパソコンと画像情報を収録したレーザーディスクをセットするビデオディスクとを設置し、パソコンの画面に、ホストコンピュータから電話回線で送られた文字情報とレーザーディスクからの画像情報とがそれぞれ写し出される情報検索システムが開示されている。また、レーザーディスクに収録された情報に素早くアクセスするための3種類の検索方法が開示されている。

この検索方法はいわゆる対話形と称されるもので、検索条件をいくつかの段階に分割してユーザーのパソコンのキーボードから順次入力すると各々の検索条件に合致する情報がデータベースでしぼり込まれ、次の検索条件の入力のための指示がパソコンの画面に表示されるので、ユーザーは画面の指示表示に従ってパソコンを操作すれば最終的には検索条件を満足する検索結果が得られるものである。

(2)  検索対象(データベース)について

審決は、引用例記載の発明において、ユーザーが設定した検索条件により検索を行う対象(データベース)はHic内のホストコンピュータであると認定しているが誤りである。

引用例に開示されているのは、検索結果として得られる商品情報の文字情報がHic内のホストコンピュータから送信され、画像情報がレーザーディスクから送信されてくるということのみである。

引用例のレーザーディスクには、必要な商品情報(文字情報と画像情報)が過不足なくすべて収録されているから、3種類の対話形検索方注をこのレーザーディスクに対して適用すれば、目的の検索結果を得ることができるものである。

また、複数の情報検索装置によって共用されるデータベースとは、通信回線を介して検索装置とデータベースとの間でデータの検索が行われることを意味するが、引用例に記載されたHic内のホストコンピュータと情報検索装置(パソコン)とが通信回線を介してデータの検索を行うことはどこにも開示されていない。

要するに、引用例に開示されているものは、検索対象となるデータベースがレーザーディスクであり、端末装置とこのデータベースとの間の対話形検索は通信回線を介することなく行われるような情報検索装置である。

しかるに、審決は、「多量の情報が蓄積されしかも複数の情報検索装置によって共用されるデータベース」が、引用例に記載された発明における「Hic内のホストコンピュータ」であるとし、「ユーザーの端末機器」との間で電話回線を介して検索が行われ、検索結果が「Hic内のホストコンピュータ」から「ユーザーの端末機器」に文字情報として送られる旨誤って認定したものである。

第3  請求の原因に対する認否及び反論

1  請求の原因1ないし3は認める。同5は争う。審決の認定は 正当であって、原告主張の誤りはない。

2  反論

(1)  対話形検索方法について

引用例に記載されている「検索方法」が一般的に意味するところの「対話形」であることは否定しない。

(2)  検索対象(データベース)について

「データベース」とは、「多量の情報が蓄積されしかも複数の情報検索装置によって共用されるもの」であって、この「情報」としては、「文字情報」、「画像情報」、「文字情報と画像情報」等が考えられるから、「文字情報と画像情報から構成される情報」に限定して解釈する理由はない。

審決は、引用例には「多量の情報が蓄積されしかも複数の情報検索装置によって共用されるデータベースを備えたホストコンピュータ」が記載されていると認定したものであって、このホストコンピュータの備えられたデータベースと本願発明におけるデータベースとは、「多量の情報が蓄積されしかも複数の情報検索装置によって共用されるもの」として同じであるから、審決の一致点の認定に誤りはない。

原告は、引用例に開示されているものは、検索対象となるデータベースがレーザーディスクであり、端末装置とこのデータベースとの間の対話形検索は通信回線を介することなく行われるような情報検索装置である旨主張する。

しかし、引用例には「Hicは3種類の検索方法を用意している。」(甲第2号証59頁1行、2行)と記載されているから、引用例に記載された発明は、ホストコンピュータにアクセスして検索結果を得るものであることは明らかであり、原告の主張は、引用例に記載されている技術内容を正しく理解していないことから生じるものであって、失当である。

以上のとおり、引用例には、Hic内のホストコンピュータとユーザーのパソコン(端末機)とが電話回線を介して検索を行うことが記載されているから、審決の認定に誤りはない。

理由

1  請求の原因1ないし3、及び、審決の理由の要点(2)〈1〉、(3)〈1〉、〈2〉(b)、〈3〉、〈4〉(b)、(4)のうち、本願発明と引用例に記載された発明とが、「検索条件を設定するための検索条件設定手段」を備え、「該受信した検索結果に対応してディスク状記録媒体に記録された情報を選択的に読み出すようにしたことを特徴とする情報検索装置」である点で一致し、認定のとおりの相違点があること、(5)〈1〉(b)、〈2〉ないし〈4〉については、当事者間に争いがない。

2  そこで、原告主張の取消事由の当否について検討する。

(1)  原告は、引用例に開示されているものは、検索対象となるデータベースがレーザーディスクであり、端末装置とこのデータベースとの対話形検索は通信を介することなく行われる情報検索装置であるから、審決が、引用例記載の発明について、ユーザーが設定した検索条件により検索を行う対象(すなわちデータベース)につき、Hic内のホストコンピュータであると認定したことは誤りである旨主張する。

引用例(甲第2号証)には、「文字情報については、必要なキーワードを書き込んだ後、ホストコンピュータに収録。一方、画像情報はレーザーディスクに収録するのである。」(58頁中欄14行ないし右欄2行)、「パソコンの画面に、ホストコンピュータから電話回線で送られる文字情報と、レーザーディスクの画像情報が、それぞれ写し出される」(58頁右欄12行ないし15行)、「自分が探したいと思う商品に、素早く近付けるデータベースでないと、実用的とはいえない。この点に関し、Hicは3種類の検索方法を用意している。すなわちA;用途分類表を使う方法、B;アイウエオ順に商品名簿を使う方法、C;メーカー名簿を使う方法、である。」(58頁右欄下から3行ないし59頁5行)と記載されていることが認められる。

これらの記載によれば、Hicの検索方法は、用途、商品名、メーカー名のキーワードにより検索されるものであり、これらのキーワードはホストコンピュータに収録されていることが認められるから、審決が、ユーザーが設定した検索条件により検索を行う対象(すなわちデータベース)について、Hic内のホストコンピュータであると認定した点に誤りはないというべきである。

(2)  原告は、レーザーディスクには必要な商品情報(文字情報と画像情報)が過不足なくすべて収録されているから、引用例に記載された3種類の対話形検索方法をこのレーザーディスクに対して適用すれば、目的の検索結果を得ることができる旨主張するが、引用例には上記3種類の対話形検索方法を上記レーザーディスクに対して適用することの記載は認められないから、上記主張は採用することができない。

また、原告は、複数の情報検索装置によって共用されるデータベースとは、通信回線を介して検索装置とデータベースとの間でデータの検索が行われることを意味するが、引用例に記載されたHic内のホストコンピュータと情報検索装置(パソコン)とが通信回線を介してデータの検索を行うことはどこにも開示されていない旨主張する。

しかしながら、引用例記載のものにおいて、検索の対象となるデータベースがHic内のホストコンピュータであることは前示のとおりであり、また、引用例には「パソコンの画面に、ホストコンピュータから電話回線で送られた文字情報」(58頁右欄12行ないし14行)と記載され、図1(別紙図面2の図1参照)にはHic内のホストコンピュータと地方公共団体、公社・公団、設計事務所等のユーザーとの間が電話回線で文字情報が送信されることが示されていることが認められ、これらの記載によれば、Hic内のホストコンピュータと情報検索装置(パソコン)システムとは、電話回線を利用する通信回線を介してデータベースと検索装置との間でデータの検索を行うものと認められるから、原告の上記主張は採用することができない。

(3)  以上のとおりであって、原告主張の取消事由は理由がない。

3  よって、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(平成10年10月20日口頭弁論終結)

(裁判長裁判官 永井紀昭 裁判官 塩月秀平 裁判官 市川正巳)

別紙図面1

〈省略〉

別紙図面2

〈省略〉

〈省略〉

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